アスリートから学ぶ、目標達成に欠かせないもの

※本レポートは、エコッツェリア協会様のレポートを転載しているものです。
こちらから元ページをご覧ください。

2019年から2021年の3年間は、日本で立て続けにメガスポーツイベントが開催され、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と呼ばれています。この好機に国を上げてスポーツ産業を拡大していこうという動きが出ていますが、その中で忘れてはならないのが、スポーツ産業の主役とも言える「アスリート」の存在です。アスリートは、身体的なポテンシャルはもちろんのこと、スポーツを通して培った人間力やマネジメント力、コミュニケーション力など、他のフィールドで活かせる能力を持っています。しかしながら、若年層の頃から競技一筋であるがゆえに現役引退後のキャリアがままならず、せっかくの能力を活かす場に恵まれていないアスリートも多いのが現状です。

そこでエコッツェリア協会では、インキュベーションHUB推進プロジェクト(※)を通じて、多種多様なキャリアを歩む元アスリートの方々を招き、現役のアスリートや、それを支援する人、スポーツ産業に関わる人に対してキャリアとの向き合い方をお話いただく「アスリート・デュアルキャリアプログラム」を実施することとなりました。

第1回目では、元プロサッカー選手で、現在はコネクト株式会社の代表取締役会長を務める百瀬俊介氏にご登壇いただき、「アスリートが秘めるグローバルな可能性」や、夢や目標を叶えるために欠かせないことについてご講演いただきました。なお、ファシリテーターは株式会社B-Bridge プロジェクトマネージャーの槙島貴昭氏が務めました。
※インキュベーションHUB推進プロジェクトとは、東京都が2013年度より実施する創業支援事業。高い支援能力・ノウハウを有するインキュベータ(起業家支援のための仕組みを有する事業体)が中心となって、他のインキュベータと連携体(=インキュベーションHUB)を構築し、それぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長段階までの支援を一体的に行う取組を支援し、起業家のライフサイクルを通した総合的な創業支援環境の整備を推進します。

グローバルで必要なものは「語学」「文化理解」「自分の強み」

中学校卒業後に単身メキシコへと渡り、若干16歳の若さで、日本人初のメキシコリーグ所属プロサッカー選手となった百瀬氏。その後、メキシコを中心に複数のクラブで活躍を遂げ、25歳のときに現役を引退します。引退後はメキシコでの生活で体得したスペイン語を活かして日系食品会社のメキシコ支社で働いた後、30歳になるタイミングで日本に帰国。サッカー監督のマネジメントや、Jリーグクラブのスタッフとしてクラブ運営に携わった後、2014年にスポーツ選手や文化人のマネジメント、システム開発、飲食、農業、整体ヘルスケア事業などを手掛けるコネクト株式会社を設立し、現在は代表取締役会長としてビジネスの第一線で活動しています。世界を舞台に戦ってきた経験を持つ百瀬氏は、まずグローバルに進出する上で欠かせないものを紹介します。それは「言語」と「文化理解」です。

「語学ができないと、いかに熱意を持っていても周囲には半分程度しか伝わらないケースがあります。逆に言えば、語学ができれば時に能力以上の評価を得ることもできるんです。例えば、Jリーグや日本代表で活躍しながら、海外クラブに移籍した途端に活躍できなかった選手は多くいます。高い能力を持ちながらも彼らが成功できなかったのは、語学ができず、チームメイトや監督とコミュニケーションがうまく取れなかったからです。彼らと比べて、僕自身は決して素晴らしい選手ではありませんでしたし、成功者でもありませんが、語学ができたおかげで、メキシコの有力者とも仲良くさせてもらうことができ、今の活動に活きている部分が多数あります」(百瀬氏、以下同)

「もうひとつ重要なのが、日本の当たり前を海外の当たり前とは思わず、その国ごとの文化を理解した上で行動していくことです。日本の場合、遠慮や規律を守ることは美徳とされますが、国や地域によっては、それらはむしろ壁になってしまったり、消極的な人物と見られ、マイナス評価につながってしまうことがあります。そこで、グローバルに打って出ていく上では、言語に加え、その国の文化や風習を理解し、どのように動いていくべきなのか、ビジョンを描くことが重要です」

その一方で、言語ができなくても自分の強みを活かせば可能性を広げられるとも話します。

「コネクトは、ポルトガル1部リーグのポルティモネンセSCというクラブのスポンサーをしている関係で、当社の整体事業に従事するスタッフの研修先とさせてもらっています。コネクトのスタッフはポルトガル語はできませんが、施術やケアという万国共通の強みを持っているので、クラブ側にも受け入れてもらうことができます。そうした強みを持っておけば、海外でも受け入れられますし、受け入れられればスタッフたちの語学に対する学習意欲が高まっていきます。まだ語学ができない人の場合、言語の習得と同時に、海外で受け入れられるための引き出しを増やすことも忘れてはなりません」

「自分を変える」「発信し続ける」ことが夢につながる

百瀬氏は続けて、自分で定めた目標やビジョンに近づいていくために欠かせないもうひとつの要素について、次のような問いかけを交えながら紹介していきました。

「ここにあるただの水を美味しく飲むためにはどうすればいいと思いますか?こうした問いかけをすると、”美味しそうな器に入れる”や”カルピスを混ぜる”あるいは”魔法を掛ける”なんて答える方もいます(笑)。これらの回答例は水を変えるものですが、より確実なのは、自分の喉を渇かすことです。喉が渇いていればただの水でも美味しく飲めるはずですよね。これと同じように、何か物事を変えようとするとき多くの人はその対象を変えようとしますが、実は最も手っ取り早くて確実なのは、自分自身が変わることなんです」

自分が変わると意識した行動は周囲も変えていく、と百瀬氏は言います。例えば百瀬氏は “代表取締役会長”という肩書ですが、トイレ掃除など人が嫌がることを率先してやるように心がけているそうです。そうした行動を続けていくと、会社環境を良くしたいという思いは自然と会社全体に広がり、仲間が増え、必然的に周囲を変えることに成功すると、百瀬氏は説きました。

夢を叶えるために重要なことはもうひとつあります。それは「言葉にして発信し続ける」ことです。それを証明するために、百瀬氏はひとりの人物を紹介します。お笑いタレントとして様々なメディア等で活躍しているディエゴ・加藤・マラドーナ氏です。

伝説的なサッカー選手ディエゴ・マラドーナのモノマネを得意とし、マラドーナ本人に会うことが昔からの夢だったという加藤氏は、仕事やプライベートで人に会う度に自らの夢を語っていたそうです。そんな折、百瀬氏に縁あるメキシコのクラブでマラドーナが監督になるというニュースが飛び込んできました。加藤氏から夢の話を聞いていた百瀬氏は、「約束はできないけれど、もしかしたらマラドーナに会わせてあげられるかもしれない」と伝え、加藤氏と共にメキシコへと向かいます。マラドーナは普段、メディアの取材をほとんど受けないものの、クラブのヘッドコーチが百瀬氏のかつてのチームメイトだったこともあり、加藤氏はマラドーナ本人と対面し、一緒にボールを蹴るという夢を叶えたのでした。

「メキシコで加藤くんのこと知っている人はいませんし、僕もマラドーナに直接面識があったわけではないので、か細い糸をたぐるような旅でした。それでも加藤くんがマラドーナに会えたのは、彼が常々自分の夢を発信し続けたことにより、僕を含め多くの人を動かせたからです。

彼はいわばグローバルな舞台で夢を叶えたわけですが、このように、夢を叶えるためには目標やビジョンを描いてそのために行動することが重要だとお分かりいただけたのではないでしょうか」

アスリートは日本社会の宝

一通り講演を終えたところで、参加者からの質疑応答へと移ります。いくつかの質問とその回答をピックアップしてご紹介します。

Q. 人との縁を獲得するコツはありますか?
A. 時間は有限なものですが、その貴重な時間を使って何らかの会合に行き、その先で内輪で他者の批判を言い合うような場面に出くわしてしまうともったいないですよね。そうしたことが嫌なので、僕は自分が得するためにむやみやたらに人とつながろうとはしていません。その一方、僕が相手に何かを提供できるのであれば、その人と積極的につながることを大切にしています。

Q. 人には長所と短所がありますが、長所を伸ばした方がいいか、短所を補うべきか、どちらの方がいいと考えますか。
A. 長所を伸ばした方がいい仕事もあれば、短所を補った方がいい仕事もあるので、一概にどちらが良いとは言えません。欠点を「欠かせない点」と読むとネガティブなものではなく、強みにも捉えることができますよね。僕の場合、強みは語学やコミュニケーション能力ですが、逆に欠点は何かと問われても、自分でもよくわからないんです。それは、できなければとりあえずやってみよう、不得意であっても向き合おうとしてきたからです。その結果、自分でできないことであれば、それが得意な人と協力するという道が拓けることもあります。だから、まずは向き合うことが、夢や目標達成の可能性を高めると言えるかもしれません。

Q. 現役時代にセカンドキャリアを意識したのはどのタイミングでしょうか。
A. 引退は常に意識していました。スポーツ選手はケガをしたら終わりですし、それでなくとも戦力外通告の可能性は常にあります。だから、引退後のことは常に考えていました。

日本では「現役中からセカンドキャリアのことを考えるよりも競技に集中しろ」と言われることも多いのですが、引退後の人生の方が遥かに長いので、むしろ引退後のことを考えていなければならないと思っています。実際に僕は23歳の頃にスポーツウェアを制作する会社を立ち上げましたし、リーグのセカンドキャリアサポート支援を活用して国家資格を取得したチームメイトもいました。次を思い描き続けることは、アスリートに限らず多くの人にとって大切なことだと考えています。

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